スターリンクのダイレクト・トゥ・セルは、衛星とスマートフォンを直接つなぐスペースXのサービスで、圏内に携帯電話の基地局がなくても普通のスマートフォンを衛星につなぐ。高度数百kmの地球低軌道(LEO)を回る専用設計のスターリンク衛星が、宇宙の基地局として働く。そのため、標準的なモバイルデータ通信規格であるLTE(ロング・ターム・エボリューション)に対応した普通の4Gスマートフォンなら、地上の電波が届かない場所でもテキストを送れ、いずれは音声通話やデータ通信も使えるようになる。新しいスマートフォンも、アプリも、車に取り付けるアンテナもいらない。
ダイレクト・トゥ・セルとは?
スペースXは2024年1月に最初のダイレクト・トゥ・セル衛星を打ち上げ、数日のうちにそのうちの1基が地上の普通のスマートフォンにショートメッセージサービス(SMS)を送った。スペースX自身の言葉によれば、目標は携帯電話の圏外をなくし、世界中をつなぐことである。
ダイレクト・トゥ・セル誕生の背景
地上の通信網は、基地局を増やしても採算が合わなくなる場所で途切れる。山、海、砂漠、町と町の間に続く人けのない幹線道路は昔から圏外で、圏外こそ緊急時に命を守るのが最も難しい場所である。ダイレクト・トゥ・セルは、特別な機器を持ち歩く必要なしにこうした空白を埋める。そのため、潜在的な市場は、すでに使われているすべての対応スマートフォンである。
仕組み
難しいのは物理の問題である。スマートフォンは数km先の基地局に届くよう設計された小さく弱い無線機で、時速数千マイルで頭上を飛び去る衛星と通信するためのものではない。スペースXはこの差を、電子的にビームの向きを変えるフェーズドアレイアンテナ、独自設計のチップ、ビーム調整ソフトウェアで埋めた。このソフトウェアは、衛星が高速で通り過ぎるときに信号の周波数がずれるドップラー効果と、スマートフォンの弱い出力を補正する。すべて、提携する通信事業者の1.6〜2.7ギガヘルツのLTE周波数帯で動いている。機能は段階的に加わった。
最初はテキストメッセージで、次に機器同士が人を介さずに通信するモノのインターネット(IoT)のデータ通信の試験が行われた。その後に商用のテキストサービスが始まり、衛星が増えるにつれて音声、動画、データが続いた。第1世代は1ビームあたり毎秒約10メガビットを運び、イーロン・マスクは次の世代ではさらに大きく増えると述べている。当初の目標は下り毎秒2〜4メガビット、想定遅延20〜40ミリ秒で、普通の接続と変わらない感覚で使える水準である。
ダイレクト・トゥ・セルの経済学
スペースXは、ローミングの提携先とほぼ同じ形で通信事業者の網に接続し、各社がすでに持つ周波数を使う。通信事業者はこの通信網を月額のオプションとして再販する。顧客がすでに払っている料金プランに新たな収入が上乗せされ、通信事業者にも契約者にも追加のハードウェアはいらない。Tモバイルは衛星オプション「Tサテライト」の料金を当初月15ドルとしていたが、提供開始時には月10ドルにした。
ダイレクト・トゥ・セルの現在
サービスは実証から日常の利用へと速いペースで進んだ。スペースXは2024年11月に米連邦通信委員会(FCC)から商用サービスの承認を得て、ワンNZは2024年12月にニュージーランド全土で衛星テキストの提供を始めた。Tモバイルは2025年2月に米国でベータ版を公開し、同年7月にTサテライトを商用化した。キーウスターは2025年11月にウクライナで提供を始め、2026年3月までにサービスは32を超える国、17億人超に届いた。
今後の展望
計画はテキストから本格的なモバイルサービスへと進み、音声、動画、より大容量のデータ通信がネットワーク全体に広がっていく。スペースXは2025年9月、エコースターの高度無線サービス(AWS-4)とHブロックの周波数を約170億ドルで買うことで合意し、11月には26億ドルの株式取引でエコースターのAWS-3免許を加えた。これらの周波数は世界中で使え、新世代のスマートフォン向け衛星が運ぶことになる。スペースX社長のグウィン・ショットウェルは、この衛星の打ち上げが2年以内に始まり、最初のスマートフォンでの試験は2026年後半になると見込んでいた。
スペースXは2026年10月8日、800MHz帯で最大14メガヘルツ幅の対になった周波数からなる全米の低周波数帯免許群を取得することで合意したと発表した。FCCの最終承認が必要で、屋内のスマートフォンにも電波を届けやすくするのが狙いである。同じ週、FCCはスターリンク・モバイルの第2世代衛星群を承認し、2GHz帯向けに最適化した1万5000基の衛星を世界向けに打ち上げることをスペースXに認めた。スペースXによると、このV2衛星は現行世代の100倍を超える帯域幅を提供する。
この構想の価値を最初に証明した緊急時の役割は、いまも中心にある。ハリケーン「ヘリーン」と「ミルトン」、そしてロサンゼルスの山火事の際には、FCCの特別な許可により、地上の通信網が止まった地域でもTモバイルの契約者がスターリンク経由でテキストを送り、無線緊急警報(WEA)を受け取れた。
SpaceX and @TMobile have been given emergency special temporary authority by the @FCC to enable @Starlink satellites with direct-to-cell capability to provide coverage for cell phones in the affected areas of Hurricane Helene. The satellites have already been enabled and
SpaceX (@SpaceX) · Xでポストを見る
まとめ
スターリンクのダイレクト・トゥ・セルは、地上の通信網では届かなかった圏外をなくしていく。エコースターからの周波数取得に投じた196億ドルは、次世代の衛星がそうしたスマートフォンに通話とデータも届けるという見通しに基づく投資である。
年表
- 2024年1月:スペースXが最初のダイレクト・トゥ・セル衛星を打ち上げ、6日以内に普通のスマートフォンへのSMS送信に成功。
- 2024年:ベータ版と緊急時のメッセージが数百万件送られる。XとWhatsAppでのビデオ通話に成功し、CAT-1のIoTデータ通信の試験も行う。
- 2024年9月:FCCの特別な許可により、ハリケーン「ヘリーン」と「ミルトン」の際にTモバイル経由でテキスト送信と無線緊急警報の受信が可能になる。
- 2024年11月:スペースXが米国でのダイレクト・トゥ・セル商用サービスについてFCCの承認を得る。
- 2024年12月:ワンNZがニュージーランド全土で衛星テキストの提供を開始。
- 2024年12月:イーロン・マスクが、最初のダイレクト・トゥ・セル衛星群が完成し、1ビームあたり約10メガビットになると発表。
- 2025年1月:イーロン・マスクが、衛星とスマートフォンの直接通信のベータ試験が3日後に始まると発表。
- 2025年2月:Tモバイルが米国でTサテライトのベータ版を公開。
- 2025年4月:Tモバイルが商用化に先立ち、Tサテライトの予定料金を15ドルから導入価格の10ドルに引き下げ。
- 2025年7月:TモバイルがTサテライトを月10ドルで商用化。
- 2025年9月:スペースXがエコースターのAWS-4とHブロックの周波数免許を約170億ドルで買うことで合意。
- 2025年11月:スペースXが26億ドルの株式取引でエコースターのAWS-3免許を追加。キーウスターがウクライナでダイレクト・トゥ・セルの提供を開始。
- 2026年3月:約650基の衛星で、サービスが32を超える国、17億人超に広がる。
- 2026年10月8日:スペースXが800MHz帯の低周波数帯で最大14MHz幅の周波数を買うことで合意(FCCの承認待ち)。FCCが1万5000基からなるスターリンク・モバイルの第2世代衛星群を承認。
出典(11)
- Starlink Direct to Cell Service Now Available(公式プレス資料)
- ワンNZ:Satellite TXT
- Tモバイル:T-Satellite
- The Register:スペースX、エコースターとの170億ドルの周波数取引でダイレクト・トゥ・セルを強化(2025年9月9日)
- Drive Tesla Canada:エコースター、26億ドルの株式取引でスペースXに周波数を追加売却(2025年11月)
- イーロン・マスクのXへの投稿:最初のダイレクト・トゥ・セル衛星群が完成(1ビームあたり約10メガビット)
- イーロン・マスクのXへの投稿:ベータ試験は3日後に開始
- イーロン・マスクのXへの投稿:スターリンクのダイレクト・トゥ・セルと提携して圏外をなくす
- スターリンクのXへの投稿:ダイレクト・トゥ・セルが2026年初めに英国初の衛星とスマートフォンの直接通信サービスに
- スペースX:スターリンク・モバイルの周波数に関する最新情報(2026年10月8日)
- スペースXのXへの投稿:800MHz帯の周波数取得の合意と第2世代衛星群の承認(2026年10月8日)