スターシップHLS
開発中 · 2021年米航空宇宙局(NASA)のアルテミス計画の月着陸に使う、スペースXの全長50mの月着陸船。
スターシップHLS(有人着陸システム)は、スペースXのスターシップの月面版であり、ロケットのうち実際に月面に降り立つ部分である。NASAはアルテミス計画の宇宙飛行士が月周回軌道から月面へ降り、また戻れるよう、スペースXにその建造を任せた。これまでに設計された中で最大の有人月着陸船で、高さは約50m、15階建てのビルほどある。1972年に最後の宇宙飛行士を月面に降ろしたアポロ月着陸船は、高さ約7mにすぎなかった。
スターシップHLSとは?
NASAは2021年4月16日、次に月へ向かう宇宙飛行士を運ぶ機体としてスペースXのスターシップを選んだ。まだ存在しない着陸船への28億9000万米ドルの信任だった。HLSは、スペースXが軌道へ、そしていずれは火星へ向かうために開発している機体から装備を省いた、月専用の型である。役割は限られている。アルテミス計画の乗員を最後の区間、つまり月周回軌道から月面まで運び、また軌道へ戻すことである。
スターシップHLSが生まれた背景
NASAは、アポロ17号以来初めて人を月面に戻すため、民間がつくる着陸船を必要としていた。月での恒久的な活動、そしていずれは火星への足がかりにするためである。この選定をめぐっては争いがあった。競合企業が異議を申し立てたが、米政府監査院(GAO)は2021年7月にそれを退け、米連邦請求裁判所も同年11月4日に選定を支持した。
NASAはその後、11億5000万ドルのオプションBの契約変更を追加し、2022年11月15日に発表した。アルテミス4での2回目の有人着陸と、乗員4人とより多くの貨物を運べる長期運用型の着陸船のための契約である。これでNASAの約束額は計40億4000万ドル以上になった。
仕組み
6基のラプターエンジン(海面用3基と宇宙の真空用3基)が、極低温に冷やした液体メタンと液体酸素を燃やす。燃焼方式は全流量二段燃焼サイクルで、効率が高い一方、つくるのが非常に難しいことで知られる。満タンにすると、機体は約1,500トンの推進剤を積む。
難しいのは、その推進剤を月まで届けることである。1回の打ち上げでは足りないため、スペースXはまず複数回のタンカーの打ち上げで、軌道を回るスターシップの燃料補給基地を満たす。そのうえでHLSに補給し、月へ向かわせる。着陸船も補給基地も地球の大気圏を通って戻ることはないので、通常のスターシップに必要な耐熱シールドとフィンを省いている。乗員と貨物は、船室と月面の間をエレベーターで行き来する。アポロの乗員がはしごで降りたのとは大きな違いである。HLSは、アポロの2人乗りの船室よりはるかに広い空間を宇宙飛行士に与え、数日間の月面滞在を支える。計画では、宇宙飛行士2人が月面に降り、残る2人は月周回軌道のオリオン宇宙船で待機する。
スターシップHLSの経済学
NASAのHLS契約は確定固定価格で、節目ごとに支払われる。仕事が引き渡されたときにだけ支払いが発生するため、コスト超過のリスクは納税者ではなくスペースXが負う。この契約は月を、再使用できるメタン燃料の大型ロケットと軌道上での補給を商業サービスとして試す場にもしている。どちらも、この計画一つよりはるかに大きな市場がある技術である。タンカーが着陸して再び飛ぶたびに、月へ届ける1kgあたりの価格は下がる。補給基地とタンカーの仕組みが完成すれば、その後のミッションにも使える。
スターシップHLSの現状
2026年10月時点で、次の節目は宇宙船どうしの推進剤移送試験と、NASAが求める設計認証審査である。スターシップは2026年9月28日に初めて軌道に到達した。これは補給飛行に必要な条件である。NASAは2026年2月27日にアルテミス計画を再編した。2027年半ばを目指すアルテミス3では、地球周回軌道でオリオンと商業着陸船(1機または2機)のドッキングを試験する。最初の有人着陸は2028年初めを目指すアルテミス4に移り、スペースXとブルーオリジンのどちらがその乗員を運ぶかは、着陸船の準備状況で決まる。アルテミス2は2026年4月1日から10日まで、4人の宇宙飛行士を乗せて月を周回した。
補給の開発はすでに進んでいる。2024年3月14日、スターシップの3回目の統合飛行試験で、船内のタンク間で極低温の推進剤を移した。HLSにとって重要な節目である。NASAのジェレミー・ケニーはこう述べた。「極低温の推進剤を軌道上でこの規模で貯蔵し移送する試みは、これまで一度もなかった。しかし、これは状況を一変させる技術だ」
今後の展望
手順は決まっている。まず軌道上で宇宙船どうしの補給を実証し、次に無人の着陸実証を行う。この実証では、月面から少なくとも2時間データを送らなければならない。その後、乗員を着陸させる。補給と再使用の節目はどれも、月に都市をつくり、その後火星に向かうというスペースX自身の計画にも役立つ。NASAの2021年の計画では最初の有人着陸の目標を2024年としており、現在の目標は2028年初めである。
まとめ
スターシップHLSは、月へ戻る最も安い方法は史上最大の着陸船を再使用ロケットで軌道上補給することだ、という賭けである。軌道上で2隻の宇宙船の間で推進剤を移すことが次の大きな一歩であり、その一歩が着陸船を月へ送り出す。
年表
- 2021年4月16日:NASAがHLSオプションAにスペースXのスターシップを選定。アルテミス計画で最初の有人月着陸に向けた、28億9000万ドルの確定固定価格・節目払いの契約。
- 2021年7月30日:米政府監査院が競合企業の異議申し立てを退け、HLSオプションAの契約が進む。
- 2021年11月4日:米連邦請求裁判所が、NASAによるスペースXのHLS選定を支持。
- 2022年11月15日:NASAが11億5000万ドルのオプションBの契約変更を発注。アルテミス4での2回目の有人着陸と、乗員4人を運べて貨物も増えた長期運用型の着陸船が対象。
- 2024年3月14日:スターシップの3回目の統合飛行試験で、軌道上の船内での極低温推進剤の移送を実証。HLSの技術上の重要な節目。
- 2026年2月27日:NASAがアルテミス計画を再編。アルテミス3は2027年の地球周回軌道でのドッキング試験となり、最初の有人着陸はアルテミス4に移る。
- 2026年4月1日〜10日:アルテミス2が4人の宇宙飛行士を乗せて月を周回。
- 2026年9月28日:第14回飛行試験でスターシップが初めて軌道に到達。
- 2026年10月:次の節目は、宇宙船どうしの推進剤移送試験とNASAの設計認証審査。
- 2027年(半ば):アルテミス3で、地球周回軌道でのオリオンと商業着陸船(1機または2機)のドッキング試験を目指す。
- 2028年(初め):NASAが、アルテミス計画で最初の有人月着陸となるアルテミス4を目指す。
